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「工藤新一は、消えろ」 ②

「私は組織を裏切り、子供の姿になって逃げ出した。そして同じ境遇で生きていると思われた工藤君を探して頼った。博士と共に暮らしながら、手元にデータのないあの薬の成分を必死に思い出したり、手掛かりを得たりし

「工藤新一は、消えろ」 ②

「私は組織を裏切り、子供の姿になって逃げ出した。そして同じ境遇で生きていると思われた工藤君を探して頼った。博士と共に暮らしながら、手元にデータのないあの薬の成分を必死に思い出したり、手掛かりを得たりして、解毒薬の試作品を何度も作った。それを工藤君に何度も飲んでもらっていたの」

 なるほど、と哀ちゃんの説明で色んなことが頭の中で整理されてきた。
 キッドが化けたりしたんじゃない、本物の新一が時々現れたのは、その解毒薬を飲んだってことなのね。
 それはわかるんだけど……。

「ねえ哀ちゃん、組織との戦いは終わって完全な解毒薬を作った、ってことでしょ? その研究データを捨てちゃったの? どうして」

「…………」

 さっきまであんなに饒舌だった哀ちゃんは急に黙ってしまった。
 しばらくの、沈黙。
 そうして。
 哀ちゃんが、口を開く。

「ねえ、……もし工藤君と一緒に永久に生きることが出来る方法があるって聞いたら、あなたはどうする?」

「え?」





63 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:29:15 ID:LjkqVwhwX

 ポカン、とする私に、哀ちゃんは更に尋ねてくる。

「永遠の時を共にする代わりに、周りの人間はあなたと工藤君を置いてどんどん成長してしまう。やがてあなた達と親しい人はみんな死んでしまって。あなたには工藤君しか頼れる人が居なくなる。なのに工藤君の心が、永い時を過ごすうちにあなたから離れてしまったりしたら……いえ、逆もあるわね。あなたの心が工藤君から離れたら。周りにはあなたの境遇を理解してくれる人は誰一人として居なくなるわ。あなたはその孤独が訪れる可能性がある状況に、身を投じることが出来る? 工藤君と永遠の時を過ごす為だけ、に」

 急にこの子は何を言い出すんだろう。



 新一と一緒に永遠の時間を過ごすなんて、そんな夢物語みたいな……、いいえ、それは昨夜私の頭にもよぎったことだった。
 もしキッドが話した通りで、新一がずっとあのままで、哀ちゃんもずっとこのままなら。
 哀ちゃんと新一は私が死んでも二人でずっと生きていくことが出来る。
 永遠の命を得た、小さな恋人達として。
 ……恋人?
 私の胸が急に痛くなった。
 さっきの哀ちゃんの言葉を思い返す。
 哀ちゃんは、新一と永遠に過ごす覚悟が出来てるってこと?
 それって、それって、つまり、……
 そして新一が私に触れてくれなかった理由。
 ああ、そっか、そうなんだ。
 私の中でストンと何かが落ちた。





64 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:31:23 ID:LjkqVwhwX

 そっか、新一は……自分と唯一の秘密を分かち合って一緒に戦ってきた彼女のこと、好きになっちゃったんだ。
 だから昨日来たのは、私に最後のお別れをする為。
 キッドの介入でなんだかおかしなことにはなったけれど、でも、でも、全部辻褄が合う。
 そっか、なんだ、なぁんだ……。
 頬を熱いものが伝っていく。
 でも、それを拭う気にならない。
 ずっとずっと、新一が帰ってくるのを待っていたのに。
 どうして私にもっと早く話してくれなかったんだろう新一は、私だって戦いたかった。
 悪の組織と、……そして彼女と。
 彼女に恨み言をいうつもりはない。
 戦う、って覚悟が本当は出来てなかったのかも知れない。
 だから、新一から言ってほしいなんてもっともらしい口実で逃げて、コナン君が新一だと気づいてたってことを……私はアイツにずっと言わなかった、言えなかった。





65 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:33:10 ID:LjkqVwhwX

 ふいにハンカチで横から涙を拭われる。

「……哀ちゃん」

「泣かないで、お願い、……泣かないで。あなたは何も悪くないの。全部……私のせい」

「ううん。……私にはきっと新一と永遠に過ごす覚悟なんて出来ない。きっと怖くなってヘコたれちゃう。……私が新一から離れることはきっとないけど、新一が私から離れたら……その時新一に孤独を味わわせることになるのが、怖い。だから、……だから哀ちゃん、新一をお願い。もうこれから新一が頼れるのは、あなただけなの。私はもう……新一に追い付けない。私には一緒にいる権利が無くなってるから。それは哀ちゃん、もうあなたのものだから」

「…………」

 目を細め、彼女はじっと私を見る。
 彼女からもらったハンカチで私は涙を拭った。
 しばらく俯いて黙っていた彼女は。
 柔らかく微笑むと、こう言った。

「きっと近いうちに工藤君はあなたの下へ帰るわ、安心して。江戸川君の姿じゃなく、工藤君の姿でね」

「何、それ、……どういう意味? 哀ちゃん……」

「……ごめんなさい。話はこれで全部終わりよ。……一人になりたいの、いいかしら……呼んでおいて追い出すみたいで申し訳ないけど」

「……わかったわ。ハンカチ、洗って返すね」

 哀ちゃんは何も応えずに私から背を向ける。
 私はそのまま黙って阿笠邸を出た。





66 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:34:39 ID:LjkqVwhwX

■■■■■■■■■■

「あら。早かったわね。さすが天下の名探偵と天下の大怪盗さん、と言ったところかしら」

「灰原、オメーやっぱり……」

 このクールな女史が、縮んだ名探偵の姿を見て、驚きの声を上げてさえくれれば。
 俺達の推理は間違ってた、だから一から考え直そうぜ、名探偵。そう言えたのにな。
 彼女は工藤邸にいた。
 阿笠博士の家を訪ねても留守で、1時間ほど待機してみたが帰ってくる気配がない。
 そのうち博士が先に帰ってきたりしたら話がややこしくなりそうだったので、名探偵にさっき渡した追跡眼鏡を使ってみることを提案した。
 隣の家にいたのを気付かなかった間抜けさを呪いながらも、扉を開けると待ち構えていた彼女の姿。
 その第一声がさっきのアレだ。





67 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:35:25 ID:LjkqVwhwX

「工藤君が怪盗さんに連れて行かれたって聞いてね。二人の頭脳があれは早い段階で私に辿り着くと思ってたんだけど、思ったよりもずっと早かったわ」

「単に、俺が元に戻る為の相談をしに来ただけとは思わないのか?」

 名探偵が尋ねると、彼女は首を横に振る。

「私の反応を見て『やっぱり』って言ったでしょ。……罠を仕掛けてあったのよ。解毒薬の効果が切れたわけじゃなくて、何者かにAPTX4869を盛られたように見せかける、ね。そうすればあなたは必ず、その犯人を探すだろうと思ったから」

「なーるほど」

 まだ動揺を隠せない名探偵の代わりに、俺は口を開く。
 彼女の瞳が俺を見上げる。

「単に解毒の効能が失われたにしちゃ、名探偵がオネンネしてる時間がやけになげーと思ったんだ。つか今までそんなんで意識失ったことあったか?」

 な、名探偵? と声を掛ければ、「……あんま、ない」と返ってくる。
 再び彼女に視線を戻し、俺は続きの言葉を紡ぐ。





68 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:37:33 ID:LjkqVwhwX

「そう、それが仕掛け。今まで解毒薬が切れるたびに苦しみこそしただろうが、意識を失うことはなかったはずという先入観。それは恐らく、解毒の方ではなく本体の毒であるAPTX4869を最初に食らった時に起こったことなんじゃねーか? 苦しんだ後、意識喪失」

 ここまで話していると下からじろりと睨みあげる視線を感じた。
 冷や汗を書いて一瞥し、慌てて視線を逸らす。
 名探偵は不貞腐れた口調で言う。

「どっかの誰かさんがー、ちょうどいいタイミングでふざけてくれたお陰で、余計にAPTX4869だと思い込んじまったんだよなー」

「そ、それは悪かったって」

 俺達の会話を聞いて、少女が「フフッ」と笑いを漏らした。

「ご協力感謝するわ、怪盗さん。ただ……あなたがいなかったら工藤君はもう少し真相に辿り着くのが遅れたかも知れないわね。だって工藤君、あなたが目覚めた時に身柄が自由なら、すぐに私の所に来て今後の対策を相談していたでしょう? 私に騙されたとも気づかないまま」

「そ、……れはそうなんだけどよ……」





69 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:39:19 ID:LjkqVwhwX
 決まり悪そうにクソガキが頬を掻いてるのを見て得意になった俺は、「続けっぞ」と声を掛けた。

「なあ名探偵。最大の罠が今の彼女の言葉の中にあったの、気づいたか?」

 俺の言葉に

「……ああ。出来れば考えたくない可能性、だったけどな」

頷くと、名探偵は鋭い瞳で彼女を睨み付けた。

「……俺が仲間を信用している、という事実をオメーは利用したんだ。完璧な資料さえあれば灰原なら完成品を作れるのは当たり前、組織との戦いが終わった今なら、灰原がそれを完成させてくれるのも当たり前、……まさか罠に嵌めて試作品を渡してくるなんて夢にも思わない、その信用と信頼を」

 名探偵の話を聞くと彼女は不敵に微笑む。
 そうして。





70 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:40:33 ID:LjkqVwhwX
「そうよ、大正解。……裏切られてショックだった? 所詮元々はあの組織に居た女だって、思ったかしら」

「バーロ」

 目を据わらせると、名探偵は溜息を吐いて頭の後ろで手を組んだ。
 そして、困ったように笑った。

「オメーの愛情表現はわかりにく過ぎんだよ」

「あら、私があなたの事を好きだとでも思ってるの? とんだ自惚れね」

「ああ思ってるさ。ただしそれは」

 そういって、名探偵はポケットから探偵バッジを取り出した。





71 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:41:41 ID:LjkqVwhwX

 彼女が訝しげに名探偵を見つめる。
 俺はただ黙って二人を見つめる。
 名探偵は、それを玄関の明かりに照らしながら、言った。

「歩美、元太、光彦、博士……この4人に対しても同等、なんだろ?」

 え、と思って彼女を見やる。
 彼女は無表情だ。
 名探偵の様子が、最初に工藤邸を訪れたばかりの時とは一変していた。
 まさかこの僅かな会話で、彼女の真の意図を見抜いた……ってことか?
 力強い自信がコイツの口調に戻っている。
 ……ハハッ、やっぱすげーわコイツ。

「灰原、お前の部屋のどこかに……あるんだろ。APTX4869が。恐らく、4錠。しかも毒性を抜き、若返りの効能も抜いて、成長停止の効能のみに絞った新作が」

 その言葉に彼女までが困った笑顔を浮かべた。





72 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:43:04 ID:LjkqVwhwX
「……そこまで見抜かれたら観念するしかないわね。そうよ、工藤君の考えた通りよ」

 二人の間に不思議な空気が流れる。
 俺は肩を竦めて名探偵にゴネた。

「なー名探偵、俺怪盗だからオメーほど推理は得意じゃねーんだよなぁ。早く種明かししてくんない?」

「へいへい」

 名探偵が手をひらひらとさせる。
 だが、その顔はどことなく嬉しそうだ。
 俺が理解しきれなかったことに優越感でも感じたのかよコイツ、だってオメーらの相互関係なんか知るか。
 そんな俺の憤慨を意に介さず、名探偵は言った。

「灰原が求めたのは……『俺との永遠の時間』なんてヤツじゃない。コイツが望んだのは、あくまで『灰原哀』の永遠の時間なんだよ」

「……といいますと?」

 彼女はただ、黙って聞いている。





73 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:45:03 ID:LjkqVwhwX
 
彼は更に続ける。

「オメーはたぶん知らないと思うが、今の灰原には……いや、灰原の正体である宮野志保、には……もう家族がいない。組織に入った時点ですでに幼少期だったはずだから、親しい友人なんかもいなかったはずだ。だから……『灰原哀』になったことで得た、博士と少年探偵団のメンバーは……コイツに取って家族のように大切な存在になっていた。……違うか、灰原?」

「違わないわ」

 彼女が淡々と応える。
 探偵は頷き、続きを語る。

「その家族と永遠に居られたら……それはどんなに幸せなことかと考えるのは、……俺は解る気がする」

 ふーむ、と俺は考えた。
 その考え方は俺も解る。
 恋人同士の二人きりの永遠、も確かにロマンチックだろう。
 だが……例えば俺、黒羽快斗の周りの奴らがずっと、永遠に同じ日常を過ごしてくれたら……それはきっと楽しいことに違いない。
 誰一人失いたくない、ずっと一緒に居たい、と。

「……我ながら愚かな話だとは思うわ。事の分別が付いていない年齢の子達にそんな物を飲ませたところで、心だけは成長していく。いつか分別が付くようになった時、きっと彼らは私を恨むでしょうね。奇妙な身体にされてしまったことを。……何より、あなたが一番、ね」





74 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:46:57 ID:LjkqVwhwX

 淡々と、しかし切なそうに言う彼女に。
 名探偵が強く言った。

「恨むわけねーだろ」

 ハッと彼女が顔を上げる。

「オメーも俺も、どんだけ俺達探偵団が強く繋がってるか、わかってんだ、知ってるんだよ。だから俺は工藤新一が江戸川コナンだったことをアイツらに話そうと思ったし、だからオメーは今回のことを考えついた。好奇心が強いアイツらのことだ、……永遠に今のメンバーで謎を追い続けられたらきっとそれは、楽しいことだって思うはず。三つ子の魂百まで、って言うように人の基本的な性質は一生変わらねぇ。確かにその状態になれば、自分達の家族やら他のダチやらはみんな成長し、いつかいなくなっちまうが……その事で余計に仲間意識、家族意識が強まって行くはずだ。自分一人じゃない、ずっと一緒に居てくれる家族のような友達がいるんだから不安じゃない……ってな。そしてそれは同時に……灰原、オメーは関わった周りの人間に愛されてるってことなんだ。だからお前を恨むはずなんて、ない」

 彼女はそこまでの演説を聞くと俯いた。





75 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:48:16 ID:LjkqVwhwX

 肩が、震えている。
 何だか抱き締めたくなるような、か細い肩。
 小学生の姿なのに小学生じゃない、大人の色気。
 けどそんな場合じゃねぇのは、場の雰囲気からさすがにわかる。
 名探偵は更に言う。

「だがメンバーの中でただ一人俺は、それを絶対に受け入れられない理由があった。必ず工藤新一に戻らなきゃならない理由があった。だからオメーは……あんな罠を仕掛けたんだ。工藤新一に戻りたくても戻れなくなる、決定的な口実を作る為に」

「……私の中で勝手に期限を決めて、あなたがそれまでに真相に辿り着いたら、今回の計画は断念しようと思ってたわ。だから単純な試作品じゃなくて、少し手の混んだことをさせて貰ったの。……そして。あなたは、辿り着いてしまった。私が想定していたよりもずっと早く」

 彼女の言葉に、名探偵は口元を釣り上げる。
 いつもなら観客を魅せる側の俺が……二人のやりとりに、完全に魅せられていた。

「私の負けよ……工藤君」





76 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:49:34 ID:LjkqVwhwX

「……俺にしがらみがなかったら間違いなくその案に乗ってたぜ? それほどオメーらと居るのは楽しすぎるんだよ。つーか、今だってさ。もし灰原が戻る手段を用意してなかったら、受け入れても構わねぇかなってくらい思ってんだ……ま、オメーが用意してないってのは有り得ないけどな」

「しがらみじゃなくて……あの子がいなかったら、の間違いでしょ」

 先程まで震えていた肩はもう震えていない。
 彼女は自分を取り戻したように言う。

「あの子に感謝なさい。あの子の言葉がなかったら私は正気に帰れなかった。さすがあなたの選んだ相手ね。……愛した相手を永遠に陥れる事がどんなに恐ろしいことかと、……彼女の言葉がなかったら私は気付かなかったかも知れない。この期に及んでもまだ意地を張って、やはり計画を遂行しようとしたかも知れない」

「蘭に会ったのか……」





77 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:51:09 ID:LjkqVwhwX
 
 なるほど、きっと探偵事務所の彼女は起きてから名探偵を心配したに違いなかった。
 それをひょっとしてこの小さな彼女に相談したのかも知れない。
 けどおかしいな……博士の研究所にも盗聴器を仕掛けてあったはず。
 だからこそ俺は、工藤新一が戻ったらデータを破棄するって話を知ってたわけで。
 二人が接触してたならわかるはず、なんだけどなぁ……。
 俺が怪訝そうにしている顔に気づいたのか、彼女はポケットから何かを取り出して差し出す。

「女性のプライバシーを盗み聴くなんて、紳士を自負するにしてはデリカシーが無いわね」

「……キッドキラーの周辺の動きは、出来るだけ把握していたいもので」

 壊れた盗聴器を受け取ると名探偵が呆れていた。

「探偵事務所にも仕掛けてんじゃねぇだろうな」

「さぁ?」

 そしらぬ顔をしてみせる。
 はぁ、と大きく溜め息を漏らした名探偵に、彼女が一つの小箱を差し出した。





78 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:52:13 ID:LjkqVwhwX

「……正真正銘のAPTX4869の解毒薬よ。完全に毒性を打ち消し、あなたの中の免疫力を高めて二度と再発しないようにする、……私の人生における最高傑作」

「……」

 名探偵は何故かそれを受け取るのを躊躇っている。
 ややあってから。
 彼は女史に尋ねた。

「オメーは? 戻らないのか?」

 それを聞いて、彼女は自嘲気味に笑ってから。

「……戻るわ。そしてあなたと同じように、あの子達に話す。……永遠なんて時間じゃなくて、あなた達と同じ時間を……共に生きたいと思ったもの」

「……そっか」

 名探偵は満足そうに頷くと、素直に薬を受け取った。





79 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:53:04 ID:LjkqVwhwX
亀仙人「もうちっとだけ続くんじゃ」





81 :名無しさん@おーぷん :2014/06/01(日)01:54:55 ID:4hyN9nfYq
>>79
長期連載フラグじゃないですかやだー





80 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:54:13 ID:LjkqVwhwX

■■■■■■■■■■

「なあ、工藤新一は消えろっつーのはどういう意味だったんだよ」

 何故か。
 ここは。
 昨日閉じ込められた、アイツのアジトだ。
 しかも江戸川コナンのままで。
 正直なんで俺は自分がここにいるのかわからない。
 薬を飲もうとしたら二人が何故かジーッと見てるもんで、さすがに男の裸の変身シーンなんて趣味の悪い物を見せたくなかった俺は、二人を追い出そうとした。
 灰原もいつもは薬を飲む時は場を外してくれてたのに、今回に限って何なんだよ。
 すると、いきなりキッドに首根っこを捕まれ持ち上げられた。

「困るんだよな。オメーらのことが解決したのはいいんだけどさ、俺の要件が全然すんでねーわけ」

「それ、って……オメーの探してるお宝の手掛かりの為に、俺の身体を色々弄って調べたいっていう……アレ?」

「そう、怪盗紳士じゃなくて変態紳士だったわけね。頭が下がるわ」

「へ……っ!?ち、ちちちちちーがうって! ガキの、しかも男の身体にそういう興味はねーから!」

「なら灰原弄ってろよ」

「……工藤君、その発言セクハラよ」

「だー! もう! いいから名探偵、来い!!」

 そんなやり取りで気が付いたら俺はここに居た。
 途中激しく抵抗した覚えがあるんだが……。
 だがそれ以上にわけわかんねーのが、目の前にいるコイツだ。





82 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:56:34 ID:LjkqVwhwX

「はぁー……あぁー……」

 深い溜め息。
 身体を調べられるのも嫌だが、わざわざ連れて来といて何も行動しないのも、意味不明すぎて腹が立つ。
 つーか早く蘭のところに行きてぇ。
 だが何故かヘコむばかりで反応が薄いこの男に、俺は思い切って最後の疑問をぶつけてみた。

「おい、質問に答えろ」

「…………あ?」

 怪盗がやっと顔を上げる。

「だから。工藤新一は消えた方がいい、消えろって言っただろ……あの意味を教えやがれ」

「んだよ、名探偵のくせにわかんねーの? 蘭ちゃんが、オメーがただいますら言わない、一切触れてくれもしないから抱きつくことも出来なくて困っちゃって、でもそれを察しないでウジウジしてる鈍感バカ探偵は、彼女みてーなイイ女の前からは消えた方がいいんじゃね? ってただそんだけの話だったんだけど」

 虚ろな瞳で奴が言う。
 だが俺は反して「はぁ!?」と思わず声を上げてしまっていた。





84 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:58:14 ID:LjkqVwhwX

「ななな、なんだよそれ、だっていつもなら俺からなんかしなくたって、蘭から、その、アレだし、ただいまを言いそびれたのだって、アイツが江戸川コナンの正体に気付いてたのにビビったっていうかその」

「思い込みってほんとこえーな名探偵……最後の戦いだったんじゃん? 彼女としてはまたオメーが日常の中に戻ってくれる、って思ったんじゃん? なのに抱き締めるどころか一切触らなかったら、……色んな勘違いするよな、『女の子』って生き物は。……名探偵、男女の性の違いくらいはわかりますよね?」

「…………」

 ……反論出来ねー。
 俺が額にむの字に浮かべて黙っていると、さっきまでのヘコみはどこへやら。キッドはニッと笑ってこう言った。

「だから鈍感バカ探偵ってんだよ。名探偵は事件に対しては名探偵だが、本当に他人から向けられる好意に対しては迷う方、の迷探偵だな」

 そこに至って、俺はあっと叫んだ。

「テメー!! やっぱ探偵事務所盗聴してやがったな!? くっそ、テメーなんざ変態紳士ですらねー、ただの変態だ、ヘ・ン・タイ!!」

 コイツが蘭の……なんかこう色々を聴いてたかと思うと探偵って立場を忘れて、マジでぶっ殺したくなってくる。
 が、キッドは途端に意気消沈して再び「はぁー……あぁー……」と息を洩らした。

「……なんなんだよ」





85 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)01:59:52 ID:LjkqVwhwX
「安心しろよ、さすがに女の子のプライバシーは探ってねぇ。仕掛けたのは応接室だけだ」

「な、ならいいけどよ……つーかオメーさっきからなんなんだ。何ヘコんでんだよ」

 するとキッドは視線を逸らしながら、ポツ、と呟くように言った。

「変態扱いされた」

「……は?」

「あの研究者の彼女に変態扱いされた。しかもショタコンだと思われた。死にたい」

「……………………は?」

 コイツは……。

「今更だろそんなもん」

 くっだらねー、と毒づいてやると、急に怪盗は俺をキッと睨んできた。

「女の子に対して変態行為してるとか思われるならな、いいんだ、別にいいんだ、よりによってホモだと思われるとかマジで死んだ方がマシだ!!」

 じゃあ死ねばいいだろ、と思いつつもそれは口に出さず、

「だから灰原にしときゃ良かったんだ。ま、自業自得だな。ハハハハハ、ザマーミロ」

嘲り笑ってやるとキッドは何がしか考えたような顔をして。
 ニヤリと笑い俺の頭をガシリと掴んで、こう言った。





86 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:00:41 ID:LjkqVwhwX

「わーったよ、この際開き直ってテメーに『そういうコト』してやらぁ。でもってテメーをそういう道に引きずりこんで、探偵事務所の愛しの彼女に顔合わせられないようにしてやんぜ!! 巻き添えだ、ハハハハハ!!」

「はぁ!? アホか、クソ、離しやがれこの変態!! あっチクショウ時計型麻酔銃がねぇ!!」

「あ、コレのこと? 抜かるわけねーじゃん」

「バーロォーッ!!」

 今の姿でキッドの力に敵うはずもなく、俺はズルズルと別室に引っ張られて行った……。





87 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:01:28 ID:LjkqVwhwX

 毛利探偵事務所の前。
 工藤新一の姿に戻った俺は、何故か緊張しながらビルの前に立っていた。
 ちゃんと蘭に言えるだろうか。
 これまでのいきさつを。
 ……あの後、何やら変な機械が大量に設置されてる部屋に引っ張り込まれた俺は、電気椅子のような物に括りつけられ、頭に「いかにも電気が流れますよ」なヘッドセットを取り付けられた。
 どうする気なのかと息を呑んで見守る。
 と、いきなり奴は成人向けのデータが収録されたディスク……いわゆるエ口ビデオ、のパッケージを見せてきた。

「……何のつもりだ」

「これ見せて興奮する度に軽い電流流すんだよ、そうするとどうなるかわかるよな? 名探偵」

「……素材が何もなくても、電流を流されるだけで興奮するようになるな、脳は」

「そ。で、今度はゲイビデオを見せながら電流を流すようにする。すると?」

「………………」

 奴が何を考えたかわかった俺は、青ざめつつも思い切り身体を捩って暴れた。

「んっとに変態だなテメーは! ふざけんのも大概にしろ! 離せ!!」





88 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:02:21 ID:LjkqVwhwX

「やーだね。名探偵がわりぃんだぜ、この怪盗紳士のことバカにしやがるわ、俺の厚意は否定しやがるわ、ほんとにムカつくんだよオメーはよ」

「俺の好意って、やっぱホモなんじゃねーか!」

「そっちの好意じゃねぇ! 厚い方!!」

「……あ?」

 はて、と考え込む。
 何か否定したことあったか?
 何だっけ?

「なあ、何の話してんだよ」

「ほーら見ろわかってねぇ。せっかく人が組織壊滅おめでとうって祝いに行ってやったのに、嘘だとかなんとか言いやがって」

 そういうとキッドは拗ねるように視線を逸らした。

「は……? え…………、オメー、…………マジ?」

「マジもマジ、大マジだっつーの。このハートフルな紳士は、ライバルの祝い事を素直に祝って差し上げられる、人間として出来てる怪盗なんだぜ? どっかの性格悪い名探偵とは違ってな?」

「…………」





89 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:03:22 ID:LjkqVwhwX
 目が点になるってのはこのことだろうか。
 それとも開いた口が塞がらない?
 俺は。
 あまりにも可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

「ぶっ……あはははは、あはは、あはははははは!! バッカじゃねーのオメー!! だって、嘘なんだろって言ったら否定しなかったじゃねーか!! むしろ肯定したじゃねーか!! カッコ付ける為だけに、そんな、それこそ自分が悪いのにわかってくれないとか拗ねて、ガキかよお前、あはははははは、あはははははは!」

「現在進行形のガキに言われたくはねぇよ……」

「いや、だって、いやははは、オメーからおめでとうなんて聞けるとは思わなかっ、あはははははは、悪い悪い、あはははははは!!」

 俺があまりに爆笑していると、キッドはむくれたままじろりと睨んできた。
 そうして。

「さっきのアイディアは止めた。電流最大にして拷問モードに変更する」

 冷静に言い放つ奴の声に我に帰り、俺は「ゲッ」と笑いを治めた。
 やべー、……めちゃくちゃ怒ってる?

「キ……キッドさん、それはたぶん死ぬんじゃねーかと……」

「うっせー。テメェみてーな性格わりぃひねくれクソ探偵は死んだ方が世の為だ」





90 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:04:33 ID:LjkqVwhwX

 そう言って手許のスイッチに手を伸ばす。

「ご、ごめんマジで悪かった!! 代わりに良いこと教えてやっから、だからスイッチは押すな!! な!?」

「ほーぅ、良いこと?」

 眼が据わってる、コイツかなり本気だ。
 俺は、冷や汗をかきながら話し始めた。

「あ……あのさ……」





91 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:05:55 ID:LjkqVwhwX



 まあそんなこんなでやっと解放された俺は、何とか工藤新一に戻り、こうして毛利探偵事務所の前にいるわけだ。
 蘭になんて言って謝るべきか……いや、謝るより先に「ただいま」?
 応接室のドアの前でブツブツ呟いて考えているといきなりドアが開き、俺は焦って後退ってしまった。

「あ、あああ、あの、蘭、ごめん!!」

「あーん? 俺は蘭じゃねーぞ探偵クソ坊主」

 は? と顔を上げればそこに立っていたのはおっちゃんだ。

「あっ……ど、どうもこんにちは、おじさん」

「ったく事件の後処理に全然参加しねぇで、何やってんだおめぇはよ。一番の当事者がいなきゃ現場検証も進まねぇだろ?」

「す……すみません。なるべく早く伺いますので」

 組織との最後の決戦で、俺は何度か工藤新一に戻って警察と連絡を取ったり共闘したりしていたので、今回の事件の当事者として完全に認識されている。
 ともかく苦笑しつつも謝ると、おっちゃんは呆れた顔をしてから。
 俺の頭に手を置いて軽くぽんと叩いた。
 ポカン、としてしまう。

「……ま、小僧にしちゃ今回の件は良くやったな。俺は今日もまた警視庁に行かなきゃならねぇが、落ち着いたら来いよ。蘭なら中にいるからよ」

「……ありがとうございます」

 そういうとおっちゃんは階段を降りて行った。
 彼が俺とコナンの関係を聞いているかはわからないが、……以前に比べてなんとなく、距離が近づいた気がする。
 それから、……おっちゃんに「中にいる」と言われたあの人物。
 今度こそ。
 俺は、意を決して中に足を踏み入れた。





92 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:07:19 ID:LjkqVwhwX

■■■■■■■■■■

 応接室の入り口で、お父さんが誰かと話してる。
 ううん、「探偵クソ坊主」なんて呼んでた。
 服部君じゃなきゃ、……後は一人しかいない。
 その人がお父さんとの会話を終えて入ってくる。
 コナン君じゃない。
 私と同い年の姿をした彼が、そこに、いる。
 彼は照れくさそうに笑うと、

「……改めて……ただいま、蘭」

 そう、静かに言った。





93 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:08:16 ID:LjkqVwhwX
 溢れてくる。
 私の気持ちも、涙も。
 言葉にならない。
 本当に、……本当にやっと、帰ってきてくれたんだ。
 涙を拭うのも忘れて新一に飛びつく。
 きつく抱き締めると……新一がそっと抱き締め返してから、目元に口付けて唇で涙を拭ってくれた。

「待たせたな、ごめん……。何ていうかその……鈍感バカ探偵で、ごめん……」

 その言い回しに可笑しくなって、私は思わずくすりと笑う。

「どうやってコナン君から新一に戻ったの? 怪盗キッドも哀ちゃんも、もう新一は新一の姿に戻れないって言ってた」

「……灰ば、……宮野さんが、万が一の為に最後の解毒薬を取っといてくれてたんだ。その万が一、が起こっちまって焦ったけど、彼女の機転で助かった」

 敢えて宮野「さん」だなんて他人行儀な呼び方をしたのはすぐにわかった。
 新一が彼女に大きな信頼を寄せてるのは少しだけ悔しかったけど。
 でも、そんなことどうでもいい。
 一度は諦めた恋。
 新一が、帰ってきてくれた。
 もう私の下にはいないと思った新一が……帰ってきてくれた。

「しんい、ち」

 掠れた声を上げてしまう。





94 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:09:34 ID:LjkqVwhwX

「私ね、ごめん、私ね、新一が哀ちゃんのこと好きになったんだと思ってた、もうここには帰ってこないんじゃないかって、私諦めた方がいいんだろうなって、……でも、考えれば考えるほど苦しくなったの、新一がトロピカルランドで遊んだ時を境にあんまり会えなくなったこと、コナン君が現れたこと、コナン君がずっとそばに居てくれたこと、コナン君をお世話してあげてたこと、コナン君が新一なんじゃないかって思った時のこと、コナン君が危ないことばっかりして、いつも事件に首をつっこんで、まるで新一みたいって思った時のこと、コナン君が事件のヒントとかいつも見つけて、きっと新一が小さかったらこんな感じだったかな、とか、新一が、いつもコナン君の姿で守ってくれたのかな、とか、……新一が戻ってきた時のこと、とか……ロンドンで、……好きな女って、言ってくれた、こととか、……全部、全部の新一が大好きでおかしくなりそうだった! ワガママな人間って思われてもいいから、哀ちゃん、と、喧嘩してもいいから、……新一と、……新一が、って、……」





95 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:10:51 ID:LjkqVwhwX

 もう、それ以上は声にならない。
 しゃっくりでまともに話せない。
 新一は黙っている。
 でも、……そっと、……私を抱き締める力を強めてくれた。
 それから、耳元に囁くように言った。

「いつも不安にさせてたな。ごめん、本当にごめん、……良かったらさ、俺にその責任、取らせてくれねーかな……」

 私はしゃくり上げながら、何とか尋ねる。

「せきにん、て?」

「蘭。……結婚、しよう」

 私の中で。
 この瞬間から時が動かないでほしい、そんなエゴイズムが走る。
 今、……今、なんて言ったの?

「新一、……私、……」

「高校卒業してからになるけどさ、……ずっと、一生……責任を取らせてくれねーかな……オメーを、ずっと……守りたいんだ……」





96 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:12:34 ID:LjkqVwhwX

 私は涙を拭って。
 ちょっとだけ、わざとむくれて見せる。

「それって責任感から? ……私のこと、単に、同情してるだけ、とか」

「バーロ! ちげーよ! なら逆に言うけどな、オメーが嫌がったって俺は蘭のそばに居たいんだ!」

「うん、……、うん、新一、あのね、私、私が、新一のこと嫌になることなんて、絶対、ないから、……ずっと一緒に居て。一生、……ううん、永遠、に」

「……ああ。生まれ変わったって、必ず蘭のこと見つけ出して、一緒に居てやるよ……」

 新一を涙目で見つめる。
 唇が近づいてくる。
 私はそっと目を閉じる。
 新一の唇の温度を感じそうになった瞬間……
 いきなりその体温は消え失せた。
 少し待ってみたけど、来ない。
 あれ? と思って目を開けると新一がいなかった。





97 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:13:41 ID:LjkqVwhwX

「し、新一?」

「ちっくしょー……」

 足元から懐かしい子供の声。
 驚いて下を見ると、私とずっと過ごしてきたあの小さな子がそこにいた。

「『私の人生における最高傑作』じゃなかったのかよ……。なんでまたコナンになってんだよ……」

 思わず目をぱちくりさせてしまう。
 見ているとコナン君……新一はブカブカの服から慌てて携帯電話を探して、すごい勢いでどこかに電話し始めた。
 少しの間があって。

「灰原!!」

 新一は、どうやら哀ちゃんに抗議を入れたらしかった。
 新一の怒号は続く。

「また戻ったのねじゃねーだろ、呑気過ぎんだよバーロ! 何なんだよこれ! ……、……。いや、うん、まあ、それはあるかも知れねーけど……うん、……」

 それからしばらくして。
 新一は観念したように言った。

「……わあったよ。……ああ、取り敢えず明日そっちに行く。うん、……うん。……ああ、すまねぇな、……それじゃまた明日」

「ど、どうしたの?」





98 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:15:21 ID:LjkqVwhwX

 目を丸くして尋ねると、新一は決まり悪そうに言う。

「どうやら今まで試作品使い過ぎたから、耐性が相当強くなっちまったんじゃないか、ってさぁ……。調べてやるから明日来いって言われて……。……はー、よりによってこんな場面で……」

 がっくりと肩を落とす新一がなんだか可愛くて、私は思わずその小さな身体を抱き締めてしまった。

「新一が新一ならどんな姿でもいいよ。それにこのコナン君サイズってすごく可愛いから、こっちの姿も私大好きだし」

「……バーロ」

 新一が赤くなってるのを見て私は笑う。
 それから。
 どちらともなく顔を近づけて、そのまま唇を重ね合わせた。





99 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:16:42 ID:LjkqVwhwX

■■■■■■■■■■

「満月の、欠けること無き夜空の輝きも美しいですが……十六夜月の不均整に欠けながらも輝く姿、これもまた美しいとは思いませんか? お嬢さん」

「ええ。人の心が欠けた姿に似ているそれは、とても儚げで美しいわね」

 女史の部屋の窓辺に腰掛け、声を掛ける。
 彼女は灰原哀から宮野志保に戻っていた。
 なるほど、……彼女にはあのクソガキのせいで変装させられたことはあったが、こうして改めて対面すると、アイツの幼馴染とは別の方向性でかなりの美人だ。
 こんな美人を振るなんて勿体無いことするよなぁ、あの名探偵。

「で。怪盗さんがこんな夜中に何の用かしら? 工藤君ならここには居ないわよ、わかってるでしょうけど」

「今夜は貴女がお持ちの物に用があって参上したのですよ、お嬢さん」

 ……あの時。
 クソムカつく性格極悪の名探偵は、こう言った。





100 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:17:44 ID:LjkqVwhwX

「あ……あのさ……。パンドラの関わりについてだけどよ、俺の身体調べるより灰原に聞いた方が早いぜ?」

 と。

「そもそもあの薬を作ったのは灰原だ。オメーは灰原が薬のデータを破棄しちまったと思い込んでるようだが、俺の予想だとたぶんまだ捨ててねぇ」

 名探偵は何かを思い出しながら淡々と語る。
 俺は取り敢えずその演説を聞くことにする。

「あの時聞いてただろ? 計画の為に4錠、APTX4869の新作を用意してたってのを。……アイツが新作を作るに当たって保険を掛けないわけがない、灰原の計画が実際遂行されちまったとして、何か起こった時に解毒する為にはデータは破棄出来ない。実際に捨てる必要は無いんだよな、厳重に保管して俺には捨てたって嘘つくだけでいい」

「ほうほう、なるほど」

「で、更に。蘭のおかげで気が変わるまでは計画を遂行するつもりでいた、みたいな意味のこと言ってたよな? それから負けを認めて自分も宮野志保に戻ると言った。つまり、俺用の解毒薬はすでに用意してあったとしても灰原用のはこれから用意するはずだ。……ぐずぐずしてると宮野志保に戻ったら、用無しになった新作の薬とデータ、今度こそ破棄しちまうぜ。こんなとこで俺と遊んでていいのか?」

「なるほど? それが名探偵がここから逃げ出す為に必死に考えた口実ですか?」





101 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:19:03 ID:LjkqVwhwX

「バーロ、俺はな!」

 名探偵の少し焦った顔を見て俺は密かにほくそ笑む。
 そうして、コイツの鼻先をチョンと突付いてから。
 微笑んで、こう言ってやった。

「名探偵。組織の壊滅、おめでとうございます」

「…………」

 呆然とする彼をよそに、俺は更に続ける。

「それからこれはまだ、ですが一応。高校生の姿にやっと戻れるようですね、先回りで申し上げておきます、おめでとうございます」
「え、あ、……キッド?」

 まだ呆然とする名探偵を俺はじろりと睨んでやった。
 コイツは事件に関しては冷静だが、事件に関しないことには本当にテンパるタイプなんだな………。
 そんなことを改めて実感して。

「名探偵、……おめでとうと言われたら? 返す言葉があんだろ?」





102 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:20:19 ID:LjkqVwhwX

 俺のセリフに名探偵はハッと我に帰って、それから照れくさそうに赤くなりながら視線を逸らす。
 口から何か、ノイズのような物が発せられた。

「…………ぜ」

「ハイ? よく聞こえませんでしたが?」

 わざとらしく言いながら耳を口元に寄せると。
 いきなり、耳に激しい痛みが走った。

「あいってええぇぇっ!!」

 ……噛られた。
 なんだこの凶悪生物は。

「こっ……のクソ探偵!!」

「ありがとう、今回は助かったぜって言ったんだよバーロー!! こんなことオメー相手じゃ恥ずかしいすぎんだよ、二度も言わせんじゃねー!!」

「だったら一発で普通の音量で言や良かっただろ! 無意味に恥ずかしがってるから、余計に恥ずかしくなるんだよ! バーロ!」

 すると名探偵はむすっとしてから視線を逸らして息を洩らし。
 言った。

「……悪かったな、色々と。今回のことはマジで助かった。……ありがとな……祝ってくれて」





103 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:21:30 ID:LjkqVwhwX

 やっと報われた俺の祝いの言葉。
 納まるところに収まったそれは、俺の心に落ち着きを取り戻させる。
 俺は先程から手にしていたリモコンを、名探偵に渡した。

「どういたしまして。……それでは私はここから去ります故、頑張って脱出してください。あ、ちなみに貴方が脱出なさろうとそうでなかろうと、時間が来たらこの隠れ家は爆破させて頂きます。他人に位置が知られてしまった隠れ家を、いつまでも残してはおけませんので」

「オメーが勝手に連れて来といて何いっ……ま、待てよキッド! これ外してけ!!」

 ドアを開けて出ていこうとした俺の背中に名探偵が慌てて声を掛けてくる。
 これは、俺からの最後の意地悪だ。
 俺は顔だけを彼に向けて、言う。

「今リモコン渡しただろう? それに拘束解除のスイッチがあるから自分で頑張って押せよ。あ、ただし電流流すスイッチもあるから間違って押したらあの世行きだな。そんじゃ」

 何も書かれていないボタンが10個ほど並んでいるリモコンを見て名探偵が青ざめる。
 ケケケ、と笑って俺は喚くアイツを無視して部屋を出た。
 ま、電流はとっくに切ってある。
 例えムカつく相手でもハナから殺すつもりはねぇし、これは名探偵に俺がどんだけ怒ったかわからせてやりたかっただけのパフォーマンス。
 感謝の言葉も聞けた。それで充分だ。
 俺はそれから別室のモニタで名探偵が脱出するのを確認してから、屋敷を爆破した。



「あなたがお作りになった新作の薬。そちらに少々用がございます」





107 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:23:25 ID:LjkqVwhwX

「…………」

 彼女は黙って口元に手を当て、考え込む。
 ややあってから顔を上げた。

「悪用されると……困るんだけど。早く処分しておくべきだったわね」

「ご心配なく。私は元々それと同じ効用を持つ、呪われた宝石パンドラを探しておりまして……その呪いの宝石を叩き壊したいのです。それを探す手掛かりが貴女の薬にある、と睨んでいるのですが……いかがでしょうか。薬は調査の後、念入りに処分させて頂きます」

「……」

 彼女は黙っている。
 俺の言葉を信用すべきか迷っているようだ。
 やがて。

「……いいわよ。あなたなら痕跡を残さず、確実に処分してくれるでしょうから」

「信用頂けて光栄の至り」

 俺の言葉に彼女はくすりと笑うと、鍵が掛けられた机の引き出し……その中に入った小さな金庫を取り出した。





109 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:24:54 ID:LjkqVwhwX

「……あなたが推測した通り、恐らくこの薬の成分には、そのパンドラ……という宝石に関わりがある成分が入ってる。私はその成分に付いては詳しくないわ。前任者から研究を引き継いだだけだから」

「なるほど」

 彼女から、金庫から取り出した小箱を受け取ってみればそこにはカプセルが4錠入っている。

「研究データについては悪いけど渡せない。工藤君がまた江戸川君の姿に戻ってしまったらしいから、……彼の身体を調べないと」

 それは今日の昼間のラブコメを盗聴してたから知っていたのだが、彼女は苦々しい表情を浮かべていた。

「本当に、……工藤君がちゃんと戻れるようにした、はずなのに……。私が未熟だったから……」

 あの時彼女は「私の人生における最高傑作」と言っていた。
 予測不能な事態とは言え、研究者としてのプライドを砕かれたんだろう。
 どんだけ女泣かせなんだよあの名探偵。
 俺は苦笑してから彼女のそばに歩み寄り、そっと頬にキスを落とした。
 唖然とした彼女が俺を見る。

「愛した男性の幸せを祈りたい、という貴女の姿勢には心打たれますね」

「……何の話?」





110 :1◆rrvt.lGSAU :2014/06/01(日)02:26:33 ID:LjkqVwhwX
 ツラっと彼女は言うが、明らかに動揺している。
 俺は彼女の手を取って軽く口付けてから言った。

「心の傷を癒やすには新しい恋を始めるのが一番です。良ければ、貴女のお相手が出来そうな人間をご紹介いたしますが?」

「それがあなただと言うなら、受けてもいいわよ」

 間髪入れずに言うと、クールに笑う彼女。
 魅力的だ、……名探偵が「しがらみがなければ彼女の案に乗っても良かった」そう言った意味がわかる気がする。

「……残念ながら、私にも少ししがらみがございまして……」

「そう。なら誰を紹介するつもりだったの?」

「江古田高校に通う、ロンドン帰りの高校生探偵。工藤探偵ほどではないかも知れませんが……私は彼の能力も評価しています。容姿もなかなかに整った青年です。良ければお膳立ていたしますよ」

 俺の言葉に……女史は目を伏せ、……可笑しそうに笑いを漏らしながら、こう言った。


「探偵さんは、もう懲り懲りよ……」




END


記事タイトル:

「工藤新一は、消えろ」 ②

関連ワード :

工藤新一

名探偵コナン

イケメン

髪色(黒)

高校生

SS

探偵




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