アドリブが作るキャラの理想 「てさぐれ!部活もの」
「アニメスタイル」編集長・小黒祐一郎
出典 【アニメ深堀り】アドリブが作るキャラの理想 「てさぐれ!部活もの」+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
抽象化されたアニメのキャラクターでありながら「本当にいる」ように感じられる。それはキャラクターの理想のかたちのひとつである。『涼宮ハルヒの憂鬱』の、あのハルヒダンスが圧倒的な支持を得たのは「よく動いているから」ではなく、よく動いていることによって、キャラクターが「本当にいる」と感じられたためであるはずだ。
『てさぐれ!部活もの』は昨年放映された深夜アニメである。3DCGで作られたシリーズで、4人の女子高生が主人公。会話中心で構成されており、話題となるのが「部活のあるあるネタ」だ。登場人物が、自分がアニメのキャラクターであることを自覚しているという、メタフィクション的な面白さがあり、日常系萌(も)えアニメのように見せかけているが、実は日常系萌えアニメをパロディー化した作品である。
前述したキャラクターの理想について考えるうえで、『てさぐれ!-』は非常に重要な作品だった。それはメタ的であったからだけではない。キャラクターの会話に、かつてないほどの臨場感があったのだ。
監督の石ダテコー太郎は、元お笑い芸人で、現役バラエティー番組構成作家という、アニメ監督としては異色のプロフィルの持ち主だ。彼は『てさぐれ!-』以前から、バラエティー番組のノウハウをアニメ制作に持ち込んでいる。つまり、出演する声優の個性を生かすかたちでキャラクターを作り、セリフ収録時のライブ感を生かし、さらに声優のアドリブを積極的に取り入れているのだ。通常のアニメは先に映像を作り、声優がそれに合わせて芝居をするのだが、石ダテ監督の作品では、まずセリフを録音し、それに合わせてキャラクターを動かす。だから、声優の地に近いセリフやアドリブをアニメに生かすことができる。
『てさぐれ!-』は台本に沿って声優が芝居をする「台本パート」にはじまり、「ポン!」と鼓の音が入ったところから「アドリブパート」に突入する。アドリブパートでは毎回のお題をベースにし、大喜利風に声優たちが会話を進める。このパートが本作最大の見どころだ。台本パートでもキャラクターの会話に現実味があるのだが、アドリブパートでは、さらにリアリティーが増す。まるで、キャラクターが自分で考えて、しゃべっているかのように見えるのだ。『てさぐれ!-』はコメディーであり、必ずしも、キャラクターが「本当にいる」と感じさせることを演出的な目的にした作品ではないが、高いレベルでその理想を実現しているのは間違いない。
また、この作品ではキャラクターと声優の境界線が曖昧であり、セリフをキャラクターが言っているのか、声優が言っているのかわからなくなっている。そういった意味での、メタ的な面白さもあるのだ。2話で登場人物の1人が話をしている相手の名前を忘れてしまい、「あなた、誰だっけ?」と言い出して、その場が混乱するという展開があった。セリフ収録時のアクシデントを、そのままアニメに生かしたわけだ。アニメ史上空前の臨場感であり、メタ的な面白さが最高潮に達した瞬間だった。『てさぐれ!-』は斬新すぎるほどに斬新な作品であり、しかも、その新しさが娯楽性としっかり結びついていた。
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【アニメ深堀り】アドリブが作るキャラの理想 「てさぐれ!部活もの」+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140604/ent14060409330003-n1.htm
「アニメスタイル」編集長・小黒祐一郎抽象化されたアニメのキャラクターでありながら「本当にいる」ように感じられる。それはキャラクターの理想のかたちのひとつである。…